お菓子作りへの想い。

新しい菓子を考える時も、
菓子を作っている時も、
いつもいろんな場面を想像します。

どんな人が口にするのだろう、
どんな時に口にするのだろうと
思いを馳せています。

今度の集まりに何か気の効いたものを持っていきたいなと考えている場面、
子供と久しぶりに会話しようと菓子を片手に誘っている場面、
家族に子供の頃の話を聞かせている場面、
何か美味しいもの、変わったものをと貪欲に探している場面、
・・・
想像していると楽しく、会ってもいない人なのに親しみを感じたりします。
そして恥ずかしい仕事はできないぞと気合が入ります。

当店のある能登地方には “あへない” という言葉があります。これは”恥ずかしい”を意味します。
「ほんなことして、あへなないかい」(そんなことをして恥ずかしくないか)という風に使います。

「自分の菓子に恥じることがないか、恥ずかしいことをしていないか」
「あへなないか」
これが当店の全ての基準です。

それ故に、売り手として都合の悪いこと、言わなくてもよいことも含めて当店の思いを正直に言っておかなければいけないと思っています。

「絶対美味しいです」
とは言いません。

「美味しいとは」
これが分かればといつも思います。

和菓子屋のみならず、食に関わる全ての者が悩み苦しむ問いです。
味覚だけではないことは分かります。
視覚や嗅覚はもちろん環境や経験、その時の体調や気分などいろいろなことが関係しているのも分かります。
同じものを美味しいと言う人もいれば、不味いという人もいますし、高価な素材の菓子より安価な素材の菓子を美味しいと感じる場合もあります。

美味しいというのは、感動の一種であり心の動きなのでしょう。
ある方向に動いた場合は美味しいと感じ、ある方向に動いた時は不味いと感じる。
動く方向や強さによってその美味しさはいろいろな美味しさになるのでしょう。
「懐かしい美味しさ」、「慣れ親しんだ美味しさ」、「なんか癖になる美味しさ」。。。。。

当店の菓子が「一番美味しい」、「絶対美味しい」なんて大それたことは言えません。
皆で一緒についた餅、子供の頃に初めて食べたアイスクリーム、人生節目の思い出の味、更に言えば暑い夏の日に喉カラカラになって飲んだ冷たい水道水
それらどれよりも心を動かせるとは思いません。

ただ、それだからこそ、口にしてもらう一瞬を一期一会だと思い恥じることのないものを作り続けようと思っています。
口にするその時がその人にとって大事な大切な時間になるかも知れないから、その時に少しでも喜んだり、幸せな気分になってもらいたいから。

材料を吟味し、手間を惜まず、更なる一手間を考え、そして正直に作り続けます。

「手作りの店」とは言いません。

「手作り」の基準とは
何なのかと考えてしまいます。

「手作り」というキーワードを前面にだして商品や店自体をアピールするというケースをよく見かけます。
よく見かけるくらいなので効果もあるのでしょう。
ただ「手作り」の基準とは何なのかと考えてしまいます。
機械を使わないということなのでしょうか、素材を全て自家製で揃えるということなのでしょうか。

当店は小豆から自家製で餡を作っています。
どら焼きなどの平鍋物(銅板や鉄板で焼く和菓子)は一枚一枚の手焼きにこだわっています。
でも「手作りの店」とは言いません。

オーブンやミキサーその他の機械も使っていますし、牛乳や砂糖も十分に吟味していますが自家製ではありません。
考え過ぎとよく言われますが、本当に全部手作りなのかと問われた場合、苦しい言い訳をしたり誤魔化したりしないといけないのは「手作り」とは言えないと思うのです。

焼き菓子を作るのにオーブンも使わずに窯で火を吹いているとは思えないし、ミキサーを使わない洋菓子屋や蒸し器を使わない和菓子屋も滅多にないと思います。
更に言えば使用する穀物、乳製品、添加物、水に至る全てを機械も介さず自家製で揃えることはもの凄く難しいです。

本当に手作りを実現できるとすれば、
美味しい水が沸く田舎のおばあちゃんが自家栽培の素材だけで作ったおはぎのようなものです。

こんな菓子にはプロだろうが名人だろうが絶対に勝てません。
子供や孫や家族、親しい人のための愛情がいっぱいで信じられないないほどの手間をかけた菓子。
これはもう商売ではないし、味がどうこうと言う話ではありません。
そんな話を聞いたらそれだけで心が震えます。食べる前から既に美味しいのです。

本当のことを言えばそんな菓子が理想だと思っています。
だから、色んな人の色んな場面を想像しながら菓子を作っています。
だから、実体もなく結果も曖昧な愛情やまごころが大切だと思っています。
だから、売れるキーワードとして安易に「手作り」とは言いたくないのです。

※人それぞれの「手作り」の基準を否定するつもりはありません。
あくまで当店の想いとして、「手作りと言わない」ということで他意はございません。

「無添加」とは言いません。

極力添加物を使用せず、
使う場合は使い勝手が悪くても
無害で天然系の添加物を
使うように努めています。

野菜や魚そのものが商品である生鮮食品は添加物が認められていないので違反していない限り全て無添加ですが、加工食品で無添加というのは非常に難しいです。
ある意味、添加物が入っているから加工食品とも言えます。

食品衛生法では添加物は以下のように定義されています。
「食品の製造過程、又は食品の加工や保存の目的で食品に添加・混和などの方法によって使用するもの」

これをそのまま受け取ると、加工のために使用されるものは添加物ということになり、素材以外のもは天然のものも含めてすべて添加物と見なされるということです。
素材を焼いたり茹でたりするだけのような簡単なもの意外は全て添加物使用になります。

例えば、パンに使うイースト菌や豆腐を固めるにがりも添加物ということになるのです。
豆腐ににがりは当たり前じゃないかと思うのですが、それを認めると紅白饅頭に紅を使うのは当たり前だから紅白饅頭の着色料は添加物としなくても良いということになってしまいます。

それでは巷に出回っている無添加の加工食品とは何なのかというと、これはほとんどがその店(メーカー)の基準で無添加ということです。

よく見かけるのが、天然系の添加物のみを使っている場合や原材料表示に添加物(保存料、甘味料、着色料など)として表示義務がないものだけを使用しているからとの基準で無添加の表示をしているケースです。
例えば、色をつけたいけど指定されている着色料を使うと添加物表示に着色料を記載しなければならないため、ホウレンソウやかぼちゃなどから色をとって着色する場合などです。
しかしこれも添加物です。

添加物に関しては、法的な定義と消費者の持っている悪いイメージとのズレが食品関係者を悩ませます。
明らかに悪質なケースは論外ですが、上記の例えのように添加物に気を使って有害だと思われるものを排除して天然系のものを使用している店は良心的だし努力もしているのです。
そんな店ほど効率や見栄えを犠牲にしている分、そのことをアピールしたくなるのも分かりますし、丁寧に長い説明を言うよりも無添加と言ってしまった方がアピールできるのも分かります。
厳密に言えば無添加と言えないけれど、無害なものを使っているのであれば消費者のイメージを考えた一つの答えだと思います。

当店も極力添加物を使用せず、使う場合は使い勝手が悪くても無害で天然系の添加物を使うように努めているので、本当は「無添加です」って言いたいです。
でも、ベーキングパウダーや寒天を使用している菓子もあるのに「当店は無添加です」とは言えません。
天然系であっても、表示義務がなくても添加物は添加物なのです。
苦しい言い訳で誤魔化さなければならないのはやっぱり苦手です。
加工食品である菓子を作っている者としてはきちんと言っておくべきであり、その上で判断してしてもらおうと思っています

食品添加物と聞くと悪いイメージが浮かんできます。
確かに、食品添加物の中には有害なものや得体のしれないものもたくさんあります。
しかし、本来は古来より食べ物の美味しさや多様性のための知恵として添加物が使われてきました。
魚を干したり、しめたり、野菜を漬けたりする塩、ゼリーや羊羹を固めるためのゼラチンや寒天、ワインを寝かせて熟成することを可能にする亜硫酸(塩)、にがり、酵母、ベーキングパウダー、イースト菌。。。。。。などなど

そしてその知恵は進化し更に多様な添加物によって多様な食品が生まれました。
安全や環境への関心が薄く軽視され、情報の少なかった時代にその進化は買う側の嗜好や売る側の都合によって効率や見栄えなどが重視され、賞味期限の異様に長い菓子やいつまでたっても綺麗な色のままの菓子など本来の姿を知る者にとっては理解しにくいものが生まれることになりました。

しかしながら、近年消費者の安全や環境に対する関心が強くなるに従い添加物もより天然系の無害なものが次々と流通されることになってきています。

当店は、新しい食感になるかも、新しい味になるかも、もっと美味しいものができるかもと思うと新しい素材や新しい製法などと同様に新しい添加物も研究してみます。

ただし、当店の添加物使用は以下を厳守します。
・有害な添加物(有害である疑いのあるものも含めて)は使用しません。
・必要な添加物(お客様にとって有益な効果があるもの)以外は使用しません。
・添加物は最低限の量しか使用しません。

創業以来当店の菓子は作り手側の都合を極力排除しているため、日持ちが悪いですし、色も褪せたりします。
本音を言えば、これらを逆手にとって「日持ちがしません。それ故に本物ですよ」と言いたいのですが、そう言ってしまうと考えることを止めることになると思うのです。
日持ちが良いことも褪せない色もお客様のニーズの一要素だと考えれば、今はできなくても考えは止めず、努力を止めずにいたいのです。

だから当店は当たり前のことを誤解を恐れず言います。
「食品添加物を使用しています」

生菓子は
出来たてが美味しいのです。

その日の朝出来たての生菓子を
「朝生」と呼んだりします。

どこからどこまでを生菓子というのかについては難しいのですが、ここでは賞味期限が1日、長くても次の日までの菓子を指すこととします。
特にその日の朝出来たての生菓子を”朝生”と呼んだりします。

生菓子(一部特殊なものを除いて)は出来たてが美味しいのです。
これは事実です。
しかし実際問題として出来たてを食べるというのはなかなか難儀で、近くの店で買った菓子も買う時間や食べる時間によっては作りたてとはいえないことになってしまいます。
ましてやインターネット販売ともなると尚更ということになります。
ただ、冷凍技術の進歩は凄いもので風味を落とさずに冷凍することが可能になってきています。
どんな食品でもOKとはいきませんが、和菓子の多くは生鮮食品(細胞が壊れてドリップが発生するなど)などと比べると冷凍/解凍との相性がよく、味も落ちにくいのです。

美味しく冷凍するには素早い冷却が不可欠です。
当店では菓子用としては最高レベルの-50℃で乾燥しないように風を当てない急速冷凍機を使用して出来たての生菓子を素早く冷凍して当日中に発送します。

食べる直前に解凍していただければ、当日買ったものと比べてもほとんど遜色ありません。
ましてや、その日の朝に作った菓子を夕方に食べたり、その日に解凍して売り出した菓子を買ってきて食べるよりも鮮度は上です。

冷凍便で発送するというのは、お客様に解凍などの手間をかけさせることになりますし、また売り手側としても急速冷凍する手間や、クール便料の負担などがかかるため本当は都合が悪いのです。
できれば冷凍しなくても日持ちがするような添加物を加えたり、焼き菓子だけの製品構成にした方が都合がいいのですが、そういった都合を優先するより作り手が美味しいと思うのものを美味しいと思う方法で提供したいのです。
だから、どんなに実店舗で売れている商品であっても配送に向いていない商品はインターネット販売しません。

インターネットで菓子を販売している者が言う言葉ではないかもしれませんが、近くに早朝に仕事場から蒸気がでている和菓子屋、できればあまり大きくなく、商売っ気がなさそうなのに地元で長く愛されている店、そんな店をもしあなたが知っていて美味しいと思っているのであれば、その店を大事にして欲しいと思います。

小さい店を無条件に勧めている訳ではありません。
あまりに小さく、繁盛していない店はモチベーションが低くなりがちになり、設備や材料にお金をかけれなくなるため、美味しくない可能性が高くなります。

また、大きくて有名な店を否定するつもりもありません。
一部にはそんな仕事をしていて恥ずかしくないのかなと思う店もありますが、大部分はクオリティの高い製品を作っていますし、小さい店よりお客様に喜んでもらうための勉強、開発、マーケティングなどいろいろ努力している店が多いと思います。

では、なぜそんな店を薦めるのか。
宣伝もできない(しない)、日持ちする菓子をあまり作らない(だから朝に作る)、それほど愛想が良い訳でもなくパッケージや包装もそれほど見栄えが良い訳でない(商売っけがない)。
それにも関わらず、長く愛されているのであれば、それらの要素が良い方(美味しさ)に作用していると思うからです。
そして、当店もそんな店を愛してくれるお客様に支えてもらって1926年の創業以来、菓子を作り続けてきたからです。

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